「―――く・・・ぅっ!!!」 遠慮なく腕に太い注射針を埋め込まれ、ナルトはくぐもった悲鳴をあげた。 大した痛みは無いが、全身がひやりとする感覚が兎に角気持ち悪い。 ―――ここはリオウの自宅の地下にあるラボ。 寝台に拘束された手足はすでに擦り切れボロボロだった。 「ふむ・・・やはりこやつの耐性は並ではないようじゃの。・・・もっと強い薬を」 「り、リオウ様!?これ以上は死んでしまいますよ!!」 「フン、こやつが死んでも文句を言ってくるのは極々少数の人間じゃて。  ・・・・・・まぁ、中には・・・すこぶる厄介な三代目火影様も含まれるがの。  それに心配ない、こやつは人間ではない・・・人間の致死量では死なん」 すぐ横で交わされるひたすらに不毛な会話。 こんな実験ごときで死んでやるつもりなどカケラも無かった。 「し、しかし・・・!」 「早くせんか、キョウ!!・・・主は狐に味方するというのか・・・・・・?」 「―――い・・・、いえ」 それにしても、この『キョウ』という人物は先程からやけに自分を庇ってくれる。 一体何を考えているのか―――おかしな奴が居たものだ、とぼんやり思う。 躊躇われつつもまた埋め込まれる太い注射針。 それは腕の中で必要以上に己を誇示し、血管内に緑の液を噴射した。 一瞬にして体中に広がっていき、今度は体内の九尾が反応する。 恐らくは特殊なチャクラが練りこまれているのだろう―――体が悲鳴をあげる。 「ぅ・・・ぁ・・・ぐぁぁあああああっ!!!」 堪えきれずに漏れる悲鳴。 拘束されることよりも、何よりもこれは屈辱的なことだった。 だがリオウはあざ笑うかのように、更に強い薬をと指示を出す。 「・・・辛いか、蓮。―――まぁ、せいぜい澪の為に頑張るんだな」 ・・・・・・・・・言われずとも。 この程度の苦痛、シカマルを守るためなら耐えられる。 彼を失う苦痛に比べれば大した問題にはならないのだから。

「・・・澪・・・いや、シカマル。―――別れてくれ」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 やはり距離を置いたほうが安全だろうから。 任務前、さりげなくそう伝えれば。 彼は驚いたようにこっちを見、そして―――・・・ 「・・・―――わかった」 ナルトの最初で最後の恋は、あっけなく終わりを告げる。 別れのキスは苦く、そして甘かった。 +  +  +  + 「―――どういうことですか・・・火影様!!」 「ブッ・・・なんじゃ、いきなり・・・騒々しいのぉシカマル」 執務が一段落し、のんびりと緑茶を味わっていたのどかなお昼時。 気配も無く窓から入りこみ、怒鳴り込まれたおかげでせっかくの茶を吹いてしまう。 最近ますます彼の気配絶ちには磨きがかかってきたようだ。 三代目はそのことに抗議しようと―――・・・ 「ナルトが俺に別れてくれと言ってきました」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 「・・・―――はて、ワシも歳でな・・・」 「ンなこたぁわかってます。ナルトにフられました」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 ―――嘘、だと。 嘘だと思った。 またいつものタチの悪い冗談だと思った。 だがシカマルの焦りの顔を一目見て、三代目も表情を引き締める。 「・・・・・・それで?」 「ただフられただけなら問題ありません。俺だって潔く諦めます。  ですが―――・・・あの時のナルトは何かがおかしかった。  冷静で、冷静を装っている(・・・・・・・・)ようにしか俺には見えませんでした」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「あいつは・・・もし本当に別れたいのなら、冷静に(・・・)話をするはずです」 しばらく、考え込む。 あのナルトがシカマルと別れる、・・・そんなことは考えられなかった。 互いが互いを必要とし、互いが互いの欠点を埋めあえる、相思相愛な理想の関係。 男同士というところが少々異質ではあったが、二人の絆は喜ばしいものであったというのに。 誰よりも・・・何よりもシカマルを愛していたナルトが、自分から別れを切り出す。 ・・・―――何か、特別な理由があるに違いなかった。 「―――うむ。ワシも、調べてみよう」 「・・・・・・お願いします」 願わくば、この胸騒ぎが杞憂であらんことを。 +  +  +  + 「―――よぉ、蓮。今回の任務も一緒だな」 「ッ! シカ・・・・・・いや、澪か」 軽い口調で声をかければ。 必要以上に反応し、必死に平静を装うナルト。 チクリと、胸が痛んだような気がした。 「・・・・・・俺フられたことなんてもう気にしてねーぜ?そりゃショックだったけどな。  俺に魅力が無くなったっつーことだし・・・それともダチとしてでも付き合えねーか?」 「い、いや!そういうワケじゃない。そうじゃないんだ」 「・・・そ、か。安心した」 「・・・・・・・・・・・・」 それきり、黙り込むナルト。 極力自分と目を合わせないようにしているようだ。 (どうした・・・ナルト。得意のポーカーフェイスは何処へいった・・・・・・) いつでも不敵な笑みを浮かべる彼は、一体何処へいったのか。 自分が惚れた、不遜とも言える高潔な彼は何処へいったのか。 ―――そして・・・小さな動揺は、大きなミスを生む。 「ナルトッ・・・!!!」 愛しくてたまらない存在に、無遠慮に刺さる無数のクナイ。 シカマルは一瞬にして周りの敵を殺し、地に落ちる前に抱きとめる。 「・・・シカ・・・マル・・・・・・俺は――――――・・・・・・」 そう言いかけて、ナルトは意識を手放した。 +  +  +  + 「ナルト!てめぇ任務中によそ事考えてんじゃねーよ!!」 「全く・・・なんなんじゃ、このザマは?」 目が覚めたら、中途半端な象牙色の天井が視界に飛び込んできた。 それに加えて早速の罵声と呆れ声。 ―――とても怪我人への態度とは思えない。 「・・・ここ・・・・・・病院・・・?」 「そうじゃ。驚いたぞ・・・お前がヘマをしたと聞いたときは」 「河童の川流れ・・・いや猿も木から落ちるっつーのがお似合いか」 「・・・・・・・・・・・・ジジィ・・・・・・シカマル・・・・・・・・・」 少し、驚いた。 当たり前のように三代目が居て、 当たり前のように―――フッたはずのシカマルが居る。 シカマルは、当たり前のように『友達でいたい』と言ってくれた。 残酷なまでにさらりと別れを告げた自分に、だ。 ―――そう思ったら、泣けてきた。 「な、ナルト・・・!?」 「どどどどどどうしたんじゃっ!?」 当然のごとく慌てる二人。 自分が泣くなんて何年ぶりだろうか。 そして。 言ってしまった、本音。 「シカマル・・・・・・俺は・・・お前と別れたくなんてないんだ・・・・・・!!」 無言で抱き締めてくれた彼を、手放すなんてことはやはり出来なくて。


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