「蓮・・・三代目火影と澪に・・・・・・何を言った・・・・・・・・・?」 「・・・・・・――――――別に何も」 かろうじで。 動揺を表に出すことだけは避けられた。 だがこのリオウがこんな答えで納得するはずもなく、 老人にしては速い拳を鳩尾にお見舞いされる。 ―――ごほりと咳き込めば、掌に血の花が咲いた。 「・・・・・・とぼけるな!! 全て、全て見ていた―――  お前の病室にはカメラを仕掛けておいたのじゃ。  もう少しでワシは火影を殺すという大罪を―――」 「黙れ・・・・・・お前とて火影に手を出せば只では済むまい」 「ッ!!・・・ふ、フン!今回は見逃してやろう。次は無いぞ!」 スタスタと、お馴染みの足取りでラボから出て行くリオウ。 ―――こんなにも・・・こんなにも簡単に。 たったこれだけの殺気を含ませるだけで、追い払えるのに。 自分は、あの最低な人間の言いなりになることしか出来ない。 「ックク・・・俺は莫迦だ・・・・・・」 莫迦だ。 果てしなく莫迦だ。 殺すに値する人間を殺さない。 こんなことは今まで無かった。 そして、こんなにも誰かを殺したいと思ったことも。 「クッ・・・はは、はははは・・・・・・」 独り、狂ったように笑い続けるナルト。 そこへ一人の黒髪の男がやってきた。 「―――蓮。これを飲んでください・・・体力が回復しますから」 「・・・・・・・・・は?・・・何アンタ・・・・・・『キョウ』?」 「はい。よく覚えてますね・・・・・・私は緋月キョウです」 胡乱気に男を見つめ、そして手の中の物を見つめた。 それは、とても温かそうで・・・美味しそうなココア。 匂いからして妙な物は入ってなさそうだ。 ―――だが、何故。 何故自分などにこんな物を持ってきてくれるのか。 この上なく、怪しい。 「・・・怪しまないで下さい。君なら毒入りでも大抵の薬は平気でしょう」 「いや・・・・・・まぁそうだけどさ。アンタ馬鹿?俺にこんな―――」 「君は英雄ですから」 「・・・・・・は?」 そう、信じられないことをポツリと呟いた男の顔は。 無表情だが―――どこか哀しげで切なげだった。 今まで『化け物』とは散々言われてきたが、 他人に『英雄』だと言われたことはなかったのだ。 ―――しかも、男の表情は本気そのもの。 「・・・アンタやっぱ馬鹿だろ・・・リオウの部下のくせして」 「私があの方に従うのは呪いをかけられたせいです」 「・・・・・・・・・・・・・・・ふーん。呪い、ね」 あの男ならやりかねないことだ。 だが・・・それでもやはり。 「―――俺は九尾だぞ?」 「いえ、君は英雄です」 「・・・・・・・・・・・・・・・」 即答。 何故だろう。 「理解できない・・・って顔してますね。だけど君は英雄です。  私はあの時―――四代目が君の中に九尾を封印した時。  あの場にいて、リオウと共にことの全てを見ていました」 「・・・・・・リオウ?呼び捨て?」 「あんな奴、呪いが無ければ殺してます」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 一瞬、穏やかだったキョウの瞳がギラリと光る。 「三代目に聞いたでしょう。四代目は君に英雄になってもらいたかった。  里人に君を英雄として称えて欲しかった。・・・けれど認めなかった」 細く、細くなるキョウの双眸。 昔を思い出しているというよりも、 現在を憎んでいるかのようだ。 「里人は愚かだ。そして私も―――この状況を甘受している君も。  呪いさえなければ、君の成し遂げた偉業を伝えたかった・・・・・・  四代目の想いと共に、愚かな里人たちに伝えたかった・・・・・・  君を利用しようとした、リオウのせいで出来なかったけれど」 淡々と、淡々と。 ひらすら事実を述べる彼はひたすら無表情。 ナルトはキョウにかけられた“呪い”をチャクラで感じてみる。 「―――アンタは。アンタは俺が憎くないのか」 「全く。君の中に居る九尾は憎くて仕方がありませんが」 「・・・・・・すまん。その呪いは俺でも解けそうにない」 「わかっています。結構ですよ」 ゆっくりと。目を瞑る。 ―――もう少し正気を保てそうだ。 +  +  +  + キョウはラボからでると、深く深く嘆息する。 自分が今でも敬愛して止まない人。 彼の遺児を、こうして苦しめてしまうのは。 「結局・・・私に勇気がなかったからだ・・・・・・」 敵対する自分の言葉を信じてくれた。 この愚かな里を守ってきてくれた。 何より優しい心を失わずにいてくれた。 彼。 「・・・・・・・・・四代目・・・今度は私が守ります」 そして決意する。 ―――呪いなど、クソ喰らえ。 (リオウ・・・・・・待っていろよ・・・・・・・・・)

+  +  +  + 「ナルト・・・てめぇいい度胸じゃねぇか・・・・・・」 「!! し、シカマル・・・さん?どうしたの後ろに不動明王なんか背負って」 「ふざけんな!!しばらく絶対安静だって言われたろ!?」 こっそりと、火影邸に戻れば般若のごとく形相をしたシカマルのお出迎え。 見れば後ろにはハァ〜ッと拳に息を吹きかける三代目の姿も。 思わず一歩引いてしまうが、それはシカマルによって引き止められる。 「は、はは・・・悪い悪い、体動かしてないと落ち着かなくてさ―――」 「言い訳はいい!!どれだけ心配したと思ってんだよ!?一体ドコ行ってた!!」 「いや・・・別にその辺をふらふらと・・・・・・」 ―――言えない。 リオウの人体実験に付き合ってました、などとは絶対に。 それにしても、毎度のことながらキレたシカマルの迫力は凄まじい。 さっさとこの状況から逃れるため、ナルトは出来るだけ軽く言い訳する。 せめて三代目のすこぶる痛い拳骨だけは避けなければ。 「その辺ってどの辺だよ!?俺は逃げたらわかるよう結界張ってたんだ!」 「うぇっ・・・シカマルちょっとそれタチ悪いぜー?ストーカーじゃ―――・・・」 パシッ―――・・・! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 「・・・・・・・・・は?」 今、何が起こったのだろうか。 ・・・・・・などとありきたりのことは考えず、ビンタを喰らったと瞬時に理解する。 だが今までにただの一度もシカマルに叩かれることなど無かったし、 無茶な実験のせいでかなり反射神経と動体視力が鈍っていたのだ。 「お前・・・こんなんも避けられねぇほど弱ってんじゃねぇかよ・・・・・・!」 「・・・―――ナルト。シカマルの気持ちも考えてやりなさい」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 ―――シカマルの、気持ち。 考える余裕など無かった。 と 言うより、無理矢理考えないようにしていた。 とにかく、彼をリオウから守りたかったから。 どれだけ非難されようとも、彼を巻き込みたくはなかったから。 「ナルト・・・俺はそんなに頼りないのかよ・・・・・・」 哀しげにうめくシカマル。 そんな彼に、ナルトはただ呆然とした。 (頼りないとか・・・そんな問題じゃねぇんだよ・・・・・・) 自分は何の為に、大切なこの二人に嘘をついているのだろう。 自分は何の為に、大切なこの二人の気持ちを無視しているのだろう。 コトの全ては己が悪い。 そんなことはわかりきっている。 胸が痛むくらいにわかっているのに。 ―――そんな、シカマルが己を責める言葉など聞きたくなかった。 彼には普段通りで居て欲しかった。 彼には余裕たっぷりで居て欲しかった。 その為に彼の気持ちを無視し、独りで全てを背負った。 悪いのは自分だ。 悪いのは自分だけだ。 ここでシカマルが己を責めたら全てが無駄になる。 ―――どうすれば、いい。 どうすれば、彼をこんな腑抜けから元の彼に戻すことが出来る。 自分が黙っているだけでは、ダメなのか・・・・・・? そしてまた、流れる涙。 「俺は―――・・・九尾を封印するために、造られた(・・・・)器なんだ」 +  +  +  + 愕然とした。 ナルトが、九尾を封印し利用するため“だけ”に造られた器で。 火影すら全くしらないところで上層部にコキ使われており。 自分との関係を材料に、リオウというご意見番の実験体にされていたことに。 愕然と。 呆然と。 そして理解する。 ナルトがなかなか口を割らなかった理由。 自分が望まないことを知りながら、守ろうとしてくれていたのだと。 ―――そしてシカマルは、ただ一言こう囁いて。 「安心しろ・・・・・・俺が殺す」 無言で涙を流す、ナルトを強く抱き締めた。 +  +  +  + 「―――リオウ様、ですね?」 「ッ!? な、なんじゃお前は・・・・・・って、お前は澪!?」 「はい。任務のことで、リオウ様にお話したいことが」 「む・・・そうか。なんじゃ?」 驚いた。 何しろいきなり現れた者が“あの”澪であったから。 もしかしたら蓮が自分のことをバラし、殺しにきたのではないかと思ったのだ。 (・・・だがそれはない・・・はずじゃ。あやつが澪を犠牲にするような真似を・・・・・・) だが一応念を入れ、呪いを通して後ろに控えたキョウに思念を送る。 彼はそこそこ出来る忍であり、リオウの秘書兼用心棒なのだ。 《キョウ・・・念のため、他の忍を呼んで配置しておけ》 《・・・・・・御意》 音も無く去っていくキョウ。 これでとりあえずは安心できるだろう。 小さく息をつき、澪の言葉に耳をかたむける。 ―――だが次にリオウが聞いた言葉は、信じられないものであった。 「私がお話したいのは・・・貴方が先日蓮に下した、古矢リュウ暗殺命令についてです」 「!!!?」 息が詰まるかと、思った。 蓮は澪に話してしまったのだ・・・・・・あれだけ脅しておいたというのに。 だがここで認めてしまうわけにはいかない。 「な・・・なんのことじゃ?ワシはそんな命令など―――」 「とぼけても無駄ですよ・・・他にもいろいろな任務がありますし、ね。  それに、貴方自身が仕掛けた盗聴器に貴方と蓮の会話が残っているんです」 「ッ・・・・・・!!!」 そんな馬鹿なことがあるはずがない。 あの小部屋に蓮を閉じ込めた時、確かに盗聴器を仕掛けたこともあったが――― 「あれは・・・キョウに撤去させたはずっ・・・・・・!!」 「ああ、申し訳ありませんリオウ様。撤去するのを忘れていました」 「!!? ッキョウ・・・!!」 聞き慣れた声に慌てて後ろを振り返れば、呪いで逆らわないはずの部下の姿。 「キョウ貴様・・・!!何をしたかわかって・・・・・・!?」 「無論です。私が犯した罪・・・四代目の遺児を苦しめてしまった。  罪は償うべきであり、償うことが不可能ならば私は死をも恐れはしない!」 「・・・・・・・・・!!!!」 瞬間、キョウの体が掻き消える。 ―――気づいた時には、後ろからクナイを当てられ拘束されていた。 信じられないほどのさっきに声も出せず、ただ震えることしか出来ない。 それを見た澪が、ゆっくりと面を取る。 「・・・・・・ゲームオーバーだぜ、リオウさんよぉ。  そいつの覚悟は固い―――呪い殺すなら、その前に俺がお前を殺す」 「・・・わっ・・・ワシは!!ワシは利用されただけだ!!古矢に脅されて―――」 「いい加減ウザいよ、リオウ」 「!!! ・・・蓮!!」 苦し紛れの言い訳に、現れたのは蓮。 「きっ、貴様わかっているのか!?これは澪を犠牲にする行為で―――」 「ああ・・・わかってる。だけど澪はそれでいいって言ってくれたよ。  俺はもう・・・・・・澪を無視して独りで抱え込むほど馬鹿じゃないから」 「そーゆーこった」 「・・・・・・・・・ッッ」 なんとかして、この状況を打破せねば。 リオウはとりあえず助けを呼ぶ為に大きく息を吸う。 だが―――・・・ 「・・・・・・だからもう、諦めなって」 胸に刺さるクナイを感じ。 視界の全てが真っ赤に染まり。 リオウはまず肺の機能が停止するのを、奇妙なほど鮮明に感じていた。 +  +  +  + ―――終わった。 素直にそう思った。 こんなにも、簡単なことだった。 よく考えてみれば、リオウを殺す理由などいくらでもある。 彼は上層部の中でも皆に嫌われており、死を望むものが多いのだから。 だから、さっさと三代目やシカマルに相談していれば良かったのだ。 キョウの腕から滑り落ちるリオウを見て、思う。 やはり自分は果てしなく莫迦で―――・・・ 「は・・・はははははっ!!」 突然の哄笑。 死の直前に狂ったのだろうか。 脂肪が邪魔をしたのだろう、即死ではなかったようだ。 「くくっ・・・忘れ・・・たか、蓮・・・・・・キョウには・・・呪いがかかって・・・いる」 「!! まさか・・・・・・ッ!」 慌ててキョウを見やれば―――吐血していた。 彼は信じられないという顔で己の掌を見つめている。 「ワシが、死ね・・・ば・・・キョウも死ぬ・・・・・・道連れだ!はは、はははっ!」 「―――チッ! シカマル!!」 横目でシカマルがリオウに癒しの術をかけるのを見届ける。 そして急いでキョウの側に駆け寄れば・・・・・・彼は笑っていた。 「―――キョウ。すまん・・・」 手遅れ、だ。 見ただけで分かった。 顔は蒼白し、指先は痙攣している。 シカマルの手当ても虚しく、リオウは息をひきとったようだ。 すなわち、彼も助からない。 悔しげに言えば、彼は更に笑みを濃いものにした。 「何故・・・何故笑う!死ぬ時に笑っていいのは俺みたいな人間だ!」 苛立たしい。 そう思った。 だが彼は笑うことを止めない。 悔いは無いと。 四代目の元へ逝ける、と。 ナルトは諦めて、ただ一言こう囁いた。 「―――ココア。美味かったよ」 あんなにも晴れやかな死に際の笑顔は、二度と見ることは出来ないだろう。 全てが終わった。 リオウという男が死んだ。 心底ほっとした。 もう二度とあのような男と関わりたくはない。 ―――キョウという男が死んだ。 軽く会話をした程度だったが、珍しく・・・少し哀しいと思った。 だからシカマルと三代目と共に、四代目の墓の隣に埋めることにした。 彼は後に、“英雄を救った英雄”と呼ばれることになる。 火影邸。 最上階の火影の執務室で、ナルトは呑気に茶を飲んでいた。 三代目とシカマルと。 しばらくはシカマルの髪をいじって遊んでいたが、 不意に―――何気ない口調でこう言った。 「じっちゃん・・・・・・俺火影になるよ」 「!! ナルト―――?」 「火影になって、この腐った上層部を変えてみせる」 「・・・・・・・・・」 黙り込む、三代目。 前からナルトに火影になるよう勧めていたのは彼自信だが、 いざそう言われてみると複雑な何かがあるのだろう。 そんな三代目を見かね、シカマルの一言。 「お前ならなれるさ―――・・・なんたって今既に英雄なんだからな」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 ナルトはしばらく瞑目すると、髪の毛いじりを再開した。


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シア様、リクエストありがとうございました^^

始め『キョウ』の役を誰にしようか、と迷ってました。
でも原作キャラだとちょっといろいろキツイかなぁ・・・と。
で、無難に適当なオリキャラを。
よく頑張りましたキョウさん。頑張れ中間管理職。
設定は本当に素晴らしいものを頂いたんですが・・・(汗
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