殺せ。殺せ。殺せ。
頭の中で声がする。
話せば精神異常者とされ、行動に移せば化け物と畏れられる。
―――否。
俺は既に化け物だ。
・・・ゴメンな、今回ばかりはお前でも止められそうにない。
Explosive
偏に“薬”といっても様々なものがある。
病や傷を癒すもの、暗殺に使われるもの、快楽をもたらす物―――。
では、こういうものはどうだろう?
“其は災厄の元凶にして甘美なる誘惑。
偉大なる妖魔すら打ち負かし、虜とする。
渇きを癒すは其の存在のみ、唯一無二なる魔性の紅。
其の姿、馨しき生と死の象徴にすら似て―――・・・”
所詮、人は弱きもの。
+ + + +
「あ――――・・・・・・飲まないと・・・」
大地は眠り、風は凪ぐ。
月も星も存在しない、永遠にすら似た闇は全てを等しく抱き締める。
それでも音はしぶとくその手を逃れ、決して絶えることはない。
己という存在を忘れさせない冷たき音は、それでも“彼”という存在を感じさせてくれる。
ジャラ・・・という小豆を鷲掴みにしたような音が、響いた。
「俺って弱いなぁ・・・“コンナモノ”に頼らなきゃ生きていけないなんて」
ジャラ・・・ジャラ・・・・・・
手の中の、色とりどりの小さな粒。
睡眠導入剤、抗不安剤、鎮痛剤・・・その他諸々。
ベッドに座り込んだ影が、擦れた声で呟いた。
部屋の中はシンとして、かろうじで衣擦れの音が聞こえるのみ。
―――殺せ。
ああ、また声がする。
抑えるためには飲まなければ。
「・・・ッ・・・ぅ・・・・・・げほっ!!」
無理して一度に流し込んだら、当然むせた。
ジャラ・・・
零れ落ちる音。
背中を叩いても無駄だ。
しばらくボーッとしていたら嘔吐感が込上げてきて、胃液まで吐いた。
こんな時は無性に惨めな思いになる。
涙が、流れた。
「・・・ねぇ・・・も・・・いい・・・・・・?」
闇の中へ問い掛ける。
返事は―――・・・あった。
「・・・駄目だ。頼むから、俺のために生きてくれ」
縋る様に、後ろから抱きすくめられる。
「・・・・・・ぉ前らしいよ・・・」
同時に首筋に感じる冷たい雫。
暗くて顔は見えないけれど、感じたくて。
無理矢理後ろを向いたら 涙が 重なった。
口移しで流し込まれたのは、紅(い丸薬。
+ + + +
ナルトが薬に頼るようになって早一年。
量は日に日に増えていき、最近では一日に数十錠の服用を要する。
―――詳しい原因は、わからない。
ただ、頭の中で“声”がするのだという。
「殺せ」 と。
恐らくは九尾が関係しているのだろうが・・・治療法は、見つからない。
薬が切れるとナルトは酷く凶暴になり、手当たり次第に“生物”を殺す。
以前も一度だけあった。
俺だから止められたが・・・二度目は、保証できない。
ナルトが特に欲するのは何故か俺が調合した赤い丸薬。
様々な文献を調べ、作り上げたもの。
少しだけ嬉しい反面、依存性があるのかと心配になったが―――・・・
俺が自分自身試してみたのだから大丈夫だろう。
静かな寝息をたてるナルト。涙の跡が痛ましい。
―――コイツが、何をしたというのか。
俺は、無力だ。
+ + + +
「はぁ〜、下忍は気楽でいいねぇ」
三班合同任務の草むしり中、現場から少し離れた木の上で。
はたけカカシ、只今イチャパラを・・・否、うずまきナルトのご尊顔を堪能中。
全くいつみても可愛らしいが、最近よく一緒に居る“アイツ”が気に入らない。
「・・・また隣にいるし・・・・・・」
邪魔してやろうと思い、地面に降り立つ。
―――と、足元の下忍達の荷物が―――正確にはナルトのものだけが目に入る。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ちょっとくらいなら☆」
完璧なプライバシーの侵害だ。
だがそんなものは平気で無視し、キョロキョロと辺りを見回してから手を突っ込む。
すると―――・・・・・・
「・・・・・・――――――何、コレ」
出てきたのは、大きな瓶。
中には大量の薬と思しき粒がぎっしりと詰まっている。
それも一つだけではなく、他にも色や形が違うものがたくさん。
(・・・・・・病気じゃ、ないよな)
そこである可能性に思い当たって、寒気がした。
もしも、もしもこれが・・・・・・・・・・・・麻薬だったら―――・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・ッ」
+ + + +
(ッ・・・そろそろ・・・限界・・・・・・)
昨日きちんと飲まなかったせいか。
そろそろ、自分の足で立っていられなくなる時間だ。
薬が切れた際の初期症状には、眩暈や吐き気、頭痛といった比較的軽いものが多い。
だがそれは時と共に悪化していき、幻覚や破壊衝動を覚えたら本格的にマズい。
「くそッ・・・!!」
ズン・・・と柔らかな地面に拳を沈ませる。
冷たい汗が、頬を伝った。
「ナ・・・ナルト・・・・・・?」
近くで作業をしていたサクラが驚愕の表情を浮かべる。
とりあえず「ゴメン、何でもないってば!」とごまかしたが、・・・ヤバい。
「ちょっと・・・顔色悪いわよ?」
「大丈夫だってば・・・」
「ナルト・・・! ―――アスマ先生、ナルトがっ・・・!」
(・・・助けて・・・・・・・・・)
アスマや紅、他の下忍達が何事かと集まってくる。カカシはいない。
だがナルトはその親切な手を振り払い、一番遠くから駆けつけてくれた“彼”に縋りつく。
「―――シカマル・・・クスリッ・・・・・・!!!!」
「ナルトッ!! 待ってろ、すぐ持ってきてやっから・・・・・・!!!」
ざわつく空気。
シカマルは困惑する皆を無視し、ナルトを抱き上げ木の下まで運んでくれる。
―――触れた部分が、暖かい。少し落ち着いた。
もう少し、頑張れる。
+ + + +
最近良く考える。
何故、ナルトだけがこうも苦しまなければならないのだろうか。
自らの意思など関係無しに、九尾という枷をつけられ、虐げられ。
久々に抱き上げたコイツは驚くほど軽くて、自分の不注意と不甲斐無さを悔やむ。
―――何故、俺はこんなにも無力なのだろう。
一番大切な奴が一番辛い時、側に居てやることしかできないなんて。
ちくしょう・・・・・・ちくしょう!!
+ + + +
「・・・・・・・・・・・・――――――無い」
「・・・・・・え?」
何を言っているのだろう、自分の一番大切な人は。
随分時間がかかっていると思い、ようやく戻ってきたと思ったら―――・・・
「無いんだよ・・・! クスリが、無い!!」
「・・・・・・嘘・・・」
「嘘じゃねぇよ! 荷物ン中もその辺の草むらの中も朝来た道も全部・・・
全部探したのに、クスリがゴッソリなくなってるんだよっ・・・!!!!」
―――嘘だと、言ってほしかった。
アレが無かったら・・・・・・
「お、おいお前ら落ち着けよ? つーか何なんだ、クスリとか―――」
慌てるアスマの声。
それから、居なくなっていたカカシの気配が―――・・・
「クスリなら捨てたよ」
「「―――――――――――――え?」」
・・・何を。
何を言っているのだ。
自分の耳が信じられなかった。
いつになく、真剣なカカシの表情を見るまでは。
しばらくシカマルと共に呆然とし、ようやく理解する。
「――――――おま・・・・・・ンで・・・捨て、た・・・・・・・・・?」
擦れたシカマルの声。
返答は冷たかった。
「だってアレ、麻薬でショ?」
「・・・・・・は?」
「ナルト・・・今から俺と病院行こう? ね、怖くないから」
「何・・・・・・を・・・・・・・・・」
麻薬? 病院? ―――どっちも自分には無縁だ。
「何があったのか知らないけど、クスリ抜かないと。
それまでかなり辛いだろうけど・・・頑張ろう?協力するから」
「・・・・・・カカ・・・シ・・・・・・つまりお前、“アレ”を麻薬だと思って捨てたのか・・・・・・?」
シカマルの慎重な問い。
返答は、どこまでも冷たい。
「だってそうでしょ? 黙認してた(シカマル君・・・・・・最低だね、お前」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ありえねぇ・・・・・・」
何なんだろう、この状況は。
この男は―――・・・・・・
(クスリが・・・もう無い? いつも殆んど持ち歩いてるのに? 麻薬?
違う・・・ちがうちがうチガウチガウ!! あれはアレはアレハ・・・!!!)
一瞬、カカシの顔が笑っているように見えた。
実際はいたって真剣な面持ちなのだが、そう見えたのだ。
視界がグラリと揺れ、けたたましい笑い声が頭の奥で鳴り響く。
―――ドクン。ドクン。ドクンドクンドクンドクドクドクドクドクドク・・・・・・
脈が段々と速く、大きくなっていく。
口の中が容赦なく渇いていき、唾液で潤そうとするが上手くいかない。
体はまるで他人の者のように動かなくなり、目にかかる前髪を払うことすら困難だ。
次第に痛みとダルさだけが体を支配するようになって、口から笛のような音が漏れた。
―――末期症状だ。
何かが、キレたのと。
シカマルがカカシを殴り飛ばしたのは、同時だった。
「っざけんなよテメェェェェエエエエ!!!」
「ぅ・・・ぁ・・・・・・ぅぁぁぁあぁぁああああああああ!!?」
特に、あの紅い薬だけは。
誰にも渡さない。 わタさない。 ワタさなイ。
ワタスくらイなラ―――・・・・・・
壊シテヤル!!!!
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その時俺は確かに永遠を感じていた。
湧き上がる力を感じていた。
それ以上に、恐怖を感じていた。
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