偽りの黒。
空虚な黒。
欺瞞で出来た黒。
其れゆえに、俺を惹きつけて止まない黒。
俺は金を隠した“偽黒”に破壊され、―――救われた。
偽黒 〜insane love〜
男は云う。
俺は汚れている。俺は狂っている。
対する男は云う。
関係ない。お前が狂人だろうと興味ない。
男は云う。
狂気はお前を蝕み侵食する。近づくな。
対する男は云う。
関係ない。お前の意思など俺は尊重しない。
男は云う。
そんな恋愛関係は成り立たない。愛などという言葉を吐くな。
対する男は云う。
どれだけ陳腐な言葉であろうとお前になら囁くさ。
男は云う。
―――お前も狂っているのか。
対する男は云う。
そうだ。きっと俺はお前よりも。
狂っているんだ。
狂気じみた愛。
其の一挙一動に感動し、
其の一挙一動に歓喜し、
其の一挙一動に殺意を覚える。
其の漆黒の髪に惹かれ、
其の隠された金に焦がれ、
其の黄金の瞳に焼かれ、
其の隠された青に射抜かれる。
己がどれだけ愛そうと、
己がどれだけ壊そうと、
決して堕ちない不屈の存在。
俺はただ、あの揺るぎない偽りの黒に惹かれたんだ。
「よぉ、澪<レイ>。また一緒だな」
「・・・・・・蓮・・・気配断ち上手すぎんだよテメェは」
不意に現れた気配と、共に降ってきた声。
気付けば其の男―――最強と名高い蓮が背後に立っていた。
そして、当たり前のように口付けられる。
「・・・・・・・・・今の俺は澪だ」
「だから?“澪”と“蓮”がこんなことして何が悪い?
“シカマル”と“ナルト”なら少々問題ありでも―――・・・なぁ?」
「・・・・・・・・・・・・ちっ」
クスクスと。笑う蓮。
無邪気なのか、無垢なのか。
恐らくはその両方とも当てはまらず、両方とも正しい。
蓮の肩にかかる程度の髪が靡く。
普段はまとめられているが、自分と2人だけの時は別だ。
其れは漆黒であるにも拘わらず―――しかも今宵は新月であるのに。
異様な程に輝き、隠された黄金の存在を誇示していた。
其の光景に目を奪われ、澪はしばし口を閉ざす。
キラキラと。キラキラと。
どこまでも鮮明に輝く漆黒の髪は、どこまでも不鮮明だ。
ともすれば闇にまぎれて消え入りそうな其の色は、
蓮の黄金の瞳によって其の存在を繋ぎとめられている。
「―――どうした、澪。人の顔に見惚れてんのか?」
「・・・・・・うっせぇよ・・・さっさと行くぞ!」
「ククッ、やっぱお前おもしれぇ・・・」
人外に美しい顔に艶やかな笑みを浮かべて。
今度こそ闇に同化した蓮は、自分のことなど無視して先へ行く。
「―――なんで・・・こんなに好きになっちまったんだろうな」
呟き。
聞く者は誰も居ない。
そして追う。
愛する者を。
この狂気じみた愛情を向ける人物を。
「いっそ殺してぇ・・・・・・」
己の手の中で死に逝く彼は、何より美しいに違いない。
「ハハッ!テメェら弱すぎるんだよっ!!」
響く哄笑。
蓮は殺すことが好き―――なのではなく、これは一種の防衛策。
繊細で傷つきやすい彼は、嗤うことで戦意をかきたてる。
澪は・・・シカマルは知っていた。
其の血塗りの面の下には、無垢なる涙が在ることを。
靡く黒髪。
肉片と化す人間。
靡く黒髪。
鮮血の彼岸花。
靡く黒髪。
肉の潰れる耳障りな音。
それらは図らずも美しき一枚の絵画を描き上げ、
蓮という美しき存在の“偽黒”を更に厚く塗り重ねてゆく。
―――見惚れた。
ただ見惚れた。
美しいと思った。
そんな自分はやはり狂っていると思った。
幻想に遠のきそうな意識を繋ぎ、
一瞬でも長い間網膜上で像にしようと努力する。
だから、放たれたクナイにも気付かない。
「澪!!」
其の瞬間見開かれた瞳を、抉って自分の物にしたかった。
「―――阿呆だな」
「・・・・・・庇われておいてそんなこと言うかフツー」
敵は全て叩きのめし、動いているのは己と蓮のみ。
―――だが、蓮の方はやや俊敏さに欠ける。
「・・・・・・・・・・・・悪かったよ」
思わず、その横っ面を殴るところであった。
己などを庇った蓮は、決して己を愛してなどいない。
募るのは苛立ち。
期待させるような真似は止めて欲しい。
自らの体を自分の為に張るのは止めて欲しい。
「・・・・・・・・・・・・・・・ハァ」
嘆息。
徐に跪くと、澪は傷ついた蓮の右肩をじっくりと見つめる。
―――毒が塗ってあるようだ。
うすうす思ってはいたし、彼にとっては殆んど無意味だが―――・・・
「オイ澪・・・何やってんだよ・・・・・・!?」
珍しく、驚愕の混じった蓮の声。
それを無視して―――・・・澪は彼の右肩に口付ける。
そして優しく吸い上げた。
口内に広がる血の味。
鼻孔から進入してくる血臭。
それすらも愛しいと思える自分はやはりおかしい。
「・・・・・・ッシカマル・・・」
心底、戸惑ったように。
偽りの黒が剥がれかけたように。
初めて聞く声音に、軽い興奮を覚えた。
この馨しき深紅の血を吐いてしまうことが、惜しいさえと思える。
―――が、さすがに蓮の手前、大人しく吐き出すのだが。
「・・・・・・・・・原始的だけどな、有効だろ。
いくらお前が毒に強いっつっても・・・・・・油断すんじゃねーぞ」
静かにそう囁いて、澪は蓮の視界から音も無く去る。
瞬間、シカマルは貪るように己が唇を舐め上げた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
澪は黙って、側の大樹にもたれかかる。
―――怪我を。させて、しまった。
痛覚などとうに忘れたと話す蓮。
気にするくらいなら仕事をしろと話す蓮。
己の突然の行動に、驚愕していた愛しき彼。
もう一度唇を舐めますが、既に血は綺麗さっぱりとれている。
だが口内には未だ鉄サビの味と臭いがはっきり残り、
否が応でも、先程の行為を思い出させては後悔させた。
「・・・・・・・・・足りねぇ」
足りない。
何かが足りない。
「・・・・・・そうか・・・“アレ”が足りねぇんだ」
【好きな人と同じ物を持ちたい】―――こんな、幼稚な感情。
澪は徐に綺麗なクナイを取り出した。
これも、蓮と同じ職人に作らせた同じ物。
―――そして、己の右肩に突き刺した。
「・・・・・・・・・ッ」
鈍い痛み。
もうこれくらいしか感じない。
けれど。
「・・・・・・ハ・・・ァ・・・」
息をつく。
そして眠りにつく。
―――良かった。これでアイツと同じだ。
「・・・―――アホか・・・・・・」
阿呆だ。
本気で阿呆だ。
彼はそう付け加えると、澪の肩に視線を落とす。
蓮は、様子を見にきてくれたのだ。
そのことに若干の驚きと大きな喜びを感じつつ、
澪は返事もせずに狸寝入りを続行した。が。
「―――寝たフリしてんじゃねぇよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
やはりバレている。
だがここまできたら意地だ。
寝たフリを続けよう。
「・・・・・・無視かよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
ツンツン。
肩の傷を突付かれる。
―――鬼だ。
普通の人間はこんなこと―――・・・
「お前そんなに俺のこと好きなワケ?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
今度は本当の意味で返事が出来ない。
こんな風に聞かれるとは思ってもみなかった。
が。
「・・・・・・そうだよ。めんどくせぇ」
咄嗟に、そう答えていた。
「ッ・・・・・・・・・起きてんじゃねーかよ・・・」
「寝言だ」
「あーそうかい器用な奴」
寝言だ。
これは寝言だ。
「じゃぁ寝言でいいから返事しろ。
―――お前は俺を、本気で好きなんだな?」
「そうだっつってんだろうが」
「・・・・・・・・・」
目を瞑ったまま、即答する。
蓮は―――ナルトは悩むように腕を組んだ。
「―――じゃぁ、試してみるか・・・」
「・・・・・・!」
くちゅ、と。
右肩に柔らかい感触。
「―――俺は汚れている。俺は狂っている」
驚いて、目を開ければ。
無表情でそう告げるナルトが居た。
「関係ない。お前が狂人だろうとそんなことに興味ない」
だから、急いでそう言った。
「狂気はお前を蝕み侵食する」
視線での拒絶。
だけどそんなもの。
「関係ない。お前のそんなくだらない意思なんか俺は尊重しねぇ」
ただ好きだと思う。
だから。
「そんな恋愛関係は成り立たない。好きだなどという言葉を吐くな」
冷たい声。
それすら愛しいと思える。
「どれだけ陳腐な言葉であろうとお前になら囁くさ」
本音の本音。
ナルトの切なげな表情。
そして問われる。
「―――お前も狂っているのか」
其の通りだ。
自分は“偽黒”に囚われ狂った人間だ。
捕えたからには責任を持て。
「そうだ。きっと俺はお前よりも」
狂っているんだ。
―――――――――――――――――――――・・・・・・・・・・・・
無言で見詰め合った後。
ナルトは低くこう言った。
「俺は、依存関係っつーモンが嫌いなんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「けどな・・・狂気じみた愛情は、嫌いじゃねーぜ?」
偽黒に囚われたのが己であるなら、
偽黒を捕えたのは己でありたい。
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斉藤有華様へ。
遅くなって申し訳ありませんでした。m(_ _;)m
シカが変態臭い・・・ていうかヤバい・・・・・・(泣
ワケわかんない話ですみません。
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