「向かない」。
以前にも一度言われたことがある―――やけに目に付く“赤”と共に。
そして、シカマルに言われ改めて思う。

「・・・っくっ・・・確かに・・・向かねぇな・・・・・・」

自嘲気味な声。
生活感のない部屋に響、己の愚かさを強調しているかのようだった。
知らず零れそうになる泪を、左腕で覆って隠す。
右腕は切なげにシーツを掴んでいる。

「・・・・・・・・・」

無力感。
特に何かをやる必要は無いにも拘わらず、自分は何も出来ないと感じてしまう。

「・・・クソッ!何シリアス気取ってんだ俺・・・・・・!!」

―――もう熱は下がった。


さぁ、仕事だ。





欲しければマジになれ





「んなななななな鳴人・・・・・・!!
 寒いよぉ・・・早く帰ってきてよぉ・・・死んじゃうよぉ・・・・・・!!!」


ごろごろごろ。
狐乃覇の控え室兼仮眠室にある簡素なベッドで、
意地でも眼帯をとらない怪しい銀髪男がのたうちまわっている。
どうやら、猛烈な頭痛を小さな遠心力と愛の力(?)で乗り切ろうとしているらしい。


「鳴人ぉ・・・・・・!!!!」


男―――はたけカカシの顔は既に何の液体なのかわからないもので、
凄絶なまでに・・・それこそ近づいたら喰われそうなほどの迫力でぐちょぐちょだ。
決して、見ていて気持ちのよい光景ではない。

「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

そして、そんな彼を遠い瞳で三十分ほど見守り続ける面々あり―――
ここ狐乃覇のホスト達、サスケ・キバ・シノである。
シノの両目は愛用のサングラスで隠れているためわからないが、
あまりの見苦しさに達観した僧侶のような雰囲気を醸し出していた。


「なぁ・・・マジでコイツどうするよ・・・?」

と、キバ。

「とりあえずこのままにしておけばいいんじゃないか・・・?」

欠伸をかみ殺しながら、サスケ。

「先程から言っているが・・・妙な真似をしないよう、
 一応ベッドに縛り付けて鋼鉄製の猿轡をさせたらどうだ」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

―――いつでもサラリと辛辣なシノである。

「「「・・・・・・・・・ハァ」」」


嘆息する彼らの前に、そして現れる救世主。





+  +  +  +





「お前ら・・・何やってんだよ・・・・・・?」


皆にキツイ視線を送られながらもナルトの看病を任されたシカマルは、
数時間遅れで狐乃覇にやって来た。―――途端、この光景だ。


「「「シカマル!!!」」」


「いや・・・・・・『シカマル!』じゃなくてだな・・・?
 お前らそろいもそろって妙な趣味に目覚めでもしたのかよ?」

と、一歩引いてしまうのも無理はない。
サスケ・キバ・シノが瀕死のカカシをベッドに縛り付ける、という光景を見てしまっては。

ついでにシノは心なしか嬉々としているし、
キバの手には猿轡が握られているし、サスケは一心不乱にカカシの上着を脱がせているし、
(実際には貧乏性な彼には高そうな上着がシワだらけになることが耐えられなかっただけ)
カカシの顔は凄絶なまでにぐちょぐちょだし・・・・・・・・・

これで引かないほうが、人間としてどこかおかしいに違いない。

サスケとキバは『妙な趣味』という言葉を聞き、自分達の行為の異常さに気付いたらしい。
ショックのあまり真っ白になって硬直してしまった。

―――と、ここで冷静なシノから訂正ひとつ。


「・・・コイツがいきなり店にきてナルトに会わせろと言うのでな。
 『コイツが』妙な真似をしないよう縛り付けているだけであって、
 『俺たちが』妙な真似をしているわけではない。勘違いするな」

「―――お、おう!!」
「そ、その通りだ」

淡々と状況説明をするシノ。
それにようやく正気を取り戻してか、やや上ずった声で同意する二人。
シカマルはそんな彼らを用心深く見回すと、嘆息した後本来の用件について切り出す。

無論、

(サスケとキバはともかく・・・シノは確実に楽しんでたよな・・・)

などと思っていることはおくびにも出さない。

「―――とにかく、カカシについては―――気絶してるな―――
 保留にしておくとして、だ。お前らだけに話しておきたいことがある、来てくれ」
「「「・・・・・・・・・???」」」


(怒るなよ・・・鳴人)



唯一無二の親友の夢。
叶えてやるには多くの仲間が必要だ。





+  +  +  +





「『話したいこと』・・・ね」


先程までの醜態が嘘のように、眼帯男が鋭い眼光と共に目を覚ます。
中途半端に施された縄と猿轡を難なく解くと、むくりとベッドから身を起こした。
そのまま腰かけ、煙草に火をつけようとして―――やめた。


(あのシノって奴・・・確かに『ナルト』って言ったよな)


忘れるはずのない、この名。


(コレで名字が『うずまき』なら最高なんだけどね)


うずまき―――ナルト。



(行方不明の俺の婚約者って・・・・・・鳴人?)






+  +  +  +






それは、男が丁度二十二歳の誕生日を迎えた日のことだった。
当時すでにNo.1であった彼は客から大量の貢物を送られ、
何かしらの記録になっていたはずだ。

しかし、男はそのようなことに全く興味が無かった。
あまり懐の暖かくない客からの物―――つまり売っても金にならない物は、
日も高くなった帰り道、その辺の路地や側溝などに捨てていく。
それをホームレスが競って拾っていくことにも何の反応も示さない。

欲しいのは、金だ。
それ以外には現時点では何もいらなかった。


(・・・眠い・・・やはり車の方が良かったか)


男は徒歩で自宅へと向っていた。気分だ。
同僚達は馬鹿にするが、他人の評価になど興味ない。
何ごとにも興味が無い男は、日の光が燦燦と降り注いでいるのにも拘わらず、
静かに雨が降っているという今の奇妙な状況にも興味を示さない。


(・・・・・・こういうのを確か・・・『狐の嫁入り』とか言ったか・・・)


ぼんやりとこう思うだけだ。
高いスーツが雨によって無遠慮に濡らされていく。
後のケアが面倒だとでも思ったのか、男は雨の当たらぬ場所を求め、
すぐ横にあった路地裏の方へと入っていった―――・・・



































射抜かれた。
その存在に。

身が震えた。
その存在に。


ジーンズにくたびれたTシャツ。
意味を成さない雨避けとして羽織っている薄いパーカー。
地味なこれらがその強烈な存在感を引き立てる。


思わず男は足を止めた。


廃ビルの壁を背に座り込んでいる少年。
背格好からみて、15歳位だろうか。
目深に被られたフードから零れる絹糸は神々しいまでの黄金だ。
濡れたそれらは束になり、先端から透明な雫が流れ落ちる。
それが奇妙な程にに悲哀を漂わせ、どこか泪を彷彿とさせた。


「・・・・・・今年は冷夏だ。雨の日にその格好は辛くないか?」


男は言った。
見知らぬ者に話し掛ける、普段なら絶対しないこと。

気分だ。

自分が珍しく興味を持った者の存在、更にその事実自体にかすかな興味を抱く。


「―――誰だ・・・アンタ。その格好からしてホストか」


少年の声は存外に落ち着いている。
もしかしたら、予想よりも年齢を重ねているのかもしれない。

・・・しかし、棘のある声だ。

己以外のモノを―――ひょっとしたら己でさえ、拒絶し忌み嫌っているかのようである。
少年からは警戒心と疑心、無いよりも強烈なまでの殺気が溢れ出していた。


「・・・・・・そうだ。よくわかったな」


男はやや伏目がちになり、座り込んでいる少年に合わせて片膝をつく。
そして、見えない壁の存在を確かめるように手を伸ばし、止めた。


「・・・そりゃわかるさ・・・俺ホストになりたいんだ」
「・・・・・・・・・・・・」


囁くような少年の声。
殺気は消え、切なさが垣間見える。

何故、とは聞かない。
理由など一つだ―――自分と同じで金がいるのだろう。

生きるために。そして叶えるために。


「・・・・・・行くあては、あるのか」
「ハッ・・・!ないに決まってんじゃん。お兄さん俺を買ってよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」


軽く、自嘲気味な口調。
その科白の意味を知らぬわけでもあるまいに。


「・・・・・・・・・・・・・・・」


男は沈黙したまま再び手を伸ばす。

今度は、見えない壁を壊すかのように。


「―――来い。今後のお前の生活費で買ってやる」
「――――――」


思いもよらない科白に、勢い良く顔を上げる少年。





































男―――うちはイタチはこの日初めて、真青な空を美しいと思った。








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あれ―――シリアス?(汗
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