「うずまきの世継ぎか…身代金はいくらになるだろうな?」

男はニヤリと笑う。

「…―――お前も、金か」

少年は嘆息する。

「……どうした?」
「いや、今まで考えたこともなかったけど……
 やっぱ金の魔力はスゴイんだなって思い知らされたよ。
 ってか俺もう家出たから。金要求しても無駄だから諦めてくれ」
「!! 宣言した、のか」
「そうそう。よく知ってるね」


やけにあの家の事情に詳しい男は、日向ネジと名乗った。








欲しければ諦めろ








完全に意識を見失う寸前、奇妙な浮遊感を感じたことを覚えている。
それに多大な不安と若干の安堵を感じながら、己は考えることを放棄した。
恐らくはあの後、どこぞの路地にでも捨てられたのだろう。

捨てられた……のだと思ったのだが。


(……どこだここは)


軋む身体に鞭打ち、ナルトは気だるげに上半身を起した。

質の良い畳から香る藺草。
和室にしては不釣合いなほど高い天井と広い面積。
己が寝ていた柔らかな布団。

それらがすべて、この部屋が庶民のものでないことを表していた。


(あいつ、か?)


回らない頭で考えると、ある考えに行き着いた。

自分をここに連れ去った―――丁寧に手当てされている―――のは彼だろう。
そして記憶の中の彼の怪訝な瞳が示す可能性は一つだ。


(俺のこと知ってるな…)


ナルトは彼のことを知らないが、どこかの会合の場にでもいたに違いない。
そして自分の正体を知られているのならば考えうる目的は二つ。

誘拐か、恩を売るか。


(あー、情けねぇ)


長い長いため息が漏れた。

この失態はなんだ。
この無様な人間は本当に己なのか。
とりあえずあの四人ぶっ殺す。

思うことは様々だが、それよりも今は捨て置けない状況に直面していた。
先ほどから襖の向こうでこちらを伺う影に、ナルトは軽く殺気を飛ばしながら言う。


「―――覗きは悪趣味だろ、オニーサン」

「……バレてたのか」


苦笑半分驚愕半分。
そんな表情で入ってきた男に、やはりあの四人との関連性は見出せなかった。







































「お前がうずまきを出ていなければな……」
「何?やっぱ身代金云々って本気?」
「いや。妹の…従妹の婿に欲しかった」
「………あ、そ。つーかネジー腹減ったー」
「少しは覚えたらどうだ」
「この美しい両手に傷でもついたらどうすんだよ」
「………ハァ」

突拍子の無い台詞に半眼になるのはいつものこと。
そしてナルトのワガママっぷりのこともいつものこと。

以来、ナルトは彼―――日向ネジの世話になっている。
その名を聞いた時には驚いたものだ。
周りに無関心だったナルトですら知っている名家の名だったのだから。
最も彼は分家の出身であり、今ナルトがいる家も本家とは遠く離れているらしい。

「…………」

ナルトのいる部屋を出て行く彼を見送りながら、思う。


(そろそろ出ていかないとな…)


ここに居候して早、半月。
ネジには多大なる迷惑をかけた。
既にうずまきの者ではない己を保護し、無償で生活の面倒を見てくれる。
あまりに見返りを要求しない彼に最初は怪訝に思いもしたが、
今では彼が純粋な厚意の元にこうしてくれていることを理解している。

ならば飯の準備くらい手伝えと言いたいところだがそこはそれ。ナルトだ。


(でもどうすっかなー…俺に仕事なんて出来るのか?)


特技ならある。数え切れないほどある。
頭も良い。力もある。
だがいかんせん学歴と年齢と愛想が足りない。


(レストランでウェイター?うわー無理無理……トビとか肉体労働系の……これが無難か?)


いろいろ考えてはみるものの、どれもいまいちピンとこない。
しかし何らかの方法で生計をたててゆかなければ。
このままネジのヒモという身分でいるのは己のプライドが許さない。

何より、自分にはやることがあるのだから。


(友達を100人作れ…ね)


これを達成できなければ、連れ戻される。
正直、ばかばかしいと思った。
もっと無理難題を提示されると思っていたし、そうあって然るべきだとも思う。

だが。


(普通の奴にならそんなに難しくないんだろうけどな……)


己にできるのだろうか。
シカマル以外とは対等に話したことすらない、世間知らずに。
ましてやあんな事があった後だ。
ナルトは若干の人間不信に陥っていた。
まあ、以前からシカマル以外の人間など信用していなかったが。


(そもそも「友達」って定義が曖昧なんだよなぁ……
 どっからが「友達」だ?つーか親父はどうやって見極めるんだ)


信頼し合えれば友達か。
ならば信頼とは何だ。
何でも腹を割って語らい合えれば信頼か。
いや、ならばあの四人組はどうだ。
世間一般の枠に当てはめれば確かに彼らは友達同士であろうが、
どう考えても互いを信頼しているような高尚な絆は見出せない。


(一度話して、メルアド交換して、遊ぶ約束でもすれば友達、か)


ナルトは気付かない。
利口すぎるがために物事を理屈で考えすぎ、
ゆえに父の課題の本質を見抜けずにいることに。


(つーかあの四人は何なんだよ……)


はあ、と嘆息一つ、そこに。


「―――入るぞ」
「おー…」


品良い動作で襖を開け(やはりあの四人との共通点は見出せない)、
皿が二つ乗った盆を持ったネジが入ってきた。
盆は大きく重いであろうが、うまくバランスを取っている。

「いやー悪いねいつも。いただきます」
「ああ…いただきます」

アスパラとトマトのパスタ。
このネジという男は、見た目に似合わずイタリアン好きだ。
無言で食する男をちらりと見やり、ナルトはごく自然に切り出す。

「ネジー……あの四人とお前ってどういう関係?」
「……なんだ出し抜けに」
「いや答えたくないならいいんだ。ただお前とアイツらが
 つるんでるのが不思議っつーか、意外っつーか」
「………」

黙り込んでしまった彼に、ナルトは内心で舌打ちする。
今彼の―――大事な大事な「友達候補」の機嫌を損ねるわけにはいかないのに。

「……ネジ?」
「日向の分家は本家ほどの財産を持っていない」
「………」
「本家では道場の生徒からの月謝も今の時代でもそれなりにある。
 膨大な不動産の経営でも巨額の富を得ているしな―――
 だが分家はそうもいかん。ゆえに独自に企業経営をしているんだ。
 あいつらは取引先の会社の息子共でな。あまり邪険にはできん」
「なるほどね……」

さほど興味も無さそうに、ナルトは相槌を打った。

まあ納得のゆく話だ。
以前の自分は、まさにその「邪険にできない」存在だった。

そしてネジの雰囲気が不機嫌さ含んでいないのを確認しつつ、もう一つ。
ナルトは本題に着手する。


「あー…あのさ」
「?何だ」
「そろそろ出てくわ」
「!―――そうか」
「いつまでも世話になってるわけにもいかねーし仕事探さないと」
「……何なら紹介しようか」
「え、マジ?助かるー」
「ただ高校中退のお前だと、肉体労働系の仕事になるだろうが……できるか?」
「当然、なんでもやるさ」
「そうか……」

ネジの何か言いたげな顔に疑問を覚えるも、何も言わない。
己の目標のために、もう一つ重要な案件がある。


「―――ネジ。友達になってくんねぇ?」


話して、メルアドを交換して、そのうちに遊ぶ約束もした。


これで友達だ。












































(つっても今月中にケータイ止められるな……)


むむむと眉間に皺を寄せ、紹介された工事現場へと向かう。
あの時とられた2万円はネジにありがたく弁償していただいた。


(―――とりあえず「友達」1号、だ)


シカマルは数にはいれない。
彼は「相棒」で、「親友」だから。


(あと99人―――やるしかねぇ)


少年は気付かない。
自分の思考の歪みに。
「友達」の定義を考えている時点で、それは「友達」ではないことに。


(それから住むとこだな……)


自分の美貌も能力も、全て熟知した少年。









「―――おっと、すいません」


肩がぶつかった女。
笑顔を貼り付け、お互いに謝り、赤面する彼女に一言。




「……ねぇ、よかったらメルアド教えてくんない?」




あとは遊ぶ約束をするだけだ。







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最初結構歪んでる…(汗
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