「・・・―――もう、行くぞ」
「ああ・・・好きにしろ」
「・・・・・・・・・」
耳朶に心地よく馴染む低めの声。
頬に降りかかる漆黒の絹糸。
眠いので視覚的には感じられないが問題ない。
フゥ―――・・・
黒い影が嘆息する。
白く濁る空気。
どこか先程までの情事を彷彿とさせる。
季節は冬。
暖房も付いていないこのオンボロアパート。
離れてゆく人肌に、温かさを求める体が鳥肌を立てた。
「・・・・・・・・・」
スルスルと、黒い影が衣服を纏う衣擦れの音。
徐に瞼を上げれば引き締まった細身の体躯が目に入る。
その造形美は神のようであり、魔物のようであった。
「・・・・・・・・・」
金の影は心中で嘆息する。
このような妄想は危険だ。
隙を見せれば取り込まれる。
隙を見つけて取り込むのだ。
「―――じゃあ、な」
玄関へ向う黒い影。
―――忘れてはならない。
ただでこんなことをしているわけではないのだから。
「待てよ。代金」
「・・・・・・・・・」
徐に振り向く、同期の下忍に良く似た美貌に表情は無い。
放られた、MOディスクは冷たく空気を切り裂いた。
XXX 〜insane love〜
ナルトとこのような関係を持ったのはいつだったか―――・・・
うちはイタチは彼を抱く代償に、彼が必要とする情報を与えている。
“情報”といってもその内容は様々だ。
彼の任務に必要なもので、諜報部の手におえないもの。
彼が個人的に興味があり、決して公にはできないもの。
彼を狙う者の名や素性等、“己”が必要だと思うもの。
・・・・・・等々。
これらの代償を払うことによって、彼を抱くことができる。
逆にいえば、これらを支払わなければ抱くことはできない。
己の腕は人並み以上だと自負しているが、命を落としかけたことは何度も有るし、
全くの他人を巻き込んだことも何度もある―――無かった事の方が少ない。
イタチが今更罪悪感を感じることなど皆無に等しかったが、この異常性は理解できた。
(それでも・・・俺はアイツを抱かずにはいられない)
思う。
そこに愛など無くても良い。
そこに情など無くても良い。
ただナルトを抱ければそれで良かった。
ただナルトと繋がればそれで良かった。
愛など無い、愛。
情など無い、情。
狂気じみた、愛。
思う。
不必要に愛だ愛だと連呼すれば、いずれそれは薄れてゆく。
だが愛だ愛だと確認しなければ、いずれそれは薄れてゆく。
そして、始めから愛が存在しなければ、それは決して薄まることはない。
言い表すならこれが適切。
存在しない愛に縋りつく己。
存在しない情に貪りつく己。
存在しない愛に愛を感じる己。
存在しない情に情を感じる己。
極一方的な、感情。
狂気じみた、感情。
(俺は・・・アイツを失ったらどうなるだろうか)
思う。
一族殺しどころでは済むまい。
大犯罪者どころでは済むまい。
己は世界の全てを殺すに違いない。
+ + + +
時々思う。
時々想う。
己は彼をどう思っているのだろう。
己は彼をどう想っているのだろう。
感情を感じさせない彼。
あの黒い瞳は見ていると兎角疲れた。
あの硬い声は耳にすると兎角疲れた。
―――だが。
彼は隠しているつもりなのだろうか。
彼は永遠に隠すつもりなのだろうか。
彼の、思いを。
彼の、想いを。
彼の、愛情を。
「・・・・・・・・・」
彼は、気付かない。
己は、バラさない。
己の、思いを。
己の、想いを。
己の、愛情を。
「・・・・・・・・・」
この関係が続けば良い。
恋愛関係は破滅を招く。
愛など知らず、情など感じず、繋がれば良い。
愛など認めず、情など無視し、繋がれば良い。
(・・・―――そしたら永遠だろう、イタチ?)
僕らのinsane loveは永遠だ。
そして始まる永遠世界。
そして始まる狂気の愛。
晒さず感じず愛など捨てろ。
戻る
------------------------------------------------------------
捨てろ。そして拾え。向こうにあるのは永遠だ。
------------------------------------------------------------