嘘だと思いたかった。
嘘だと思った。
全て幻だと思いたかった。
きっと、幻だと思った。
それほどに憎んでいた。
それほどに信じられなかった。

今更会いに来ても、あの頃に戻ることなどできない。
今更信じるも信じないもないけれど。
俺を無理やりに攫っていかない優しさに腹が立つ。
ずっと気付かなかった自分に腹が立つ。

どうすれば断ち切れる?
どうすれば痛みを癒せるの?
どうすれば吹っ切れる?
どうすれば涙を止められる?

初恋に途惑う少女のように。
初恋に酔う少女のように。
愛に身を焦がす女のように。
愛に気が狂う女のように。

俺は・・・・・・
私は・・・・・・

俺に“切なさ”を教えて去ったお前が、何より―――・・・・・・
私に“切なさ”を教えてくれが貴方が、何より―――・・・・・・




















憎いよ、イタチ。
愛しい、ナルト。






















俺が好きなら・・・(前編)























ざけんじゃねぇぞ・・・・・・何でアイツがここにいる!?

面倒なことこの上ない三班合同任務の休憩中。
カカシのセクハラを適当にかわしつつ、から揚げを頬張っていたところに。
“奴”の気配がしたのだからたまらない。

何年ぶりになるのか。
懐かしいと言えば懐かしい、忌々しいと言えば忌々しい気配。
愛しいと言えば・・・いや、決してそんなことはありえない。
ついでにもう一人、知らない奴がいる。

俺は不自然にならぬようホルスターからクナイを抜き、
磨いているフリをしながら“奴”の位置を探った。

―――8時の方向森の中、38メートル。

上忍達は気付かない。当然だが。
俺でも勝てるかどうか・・・恐らくは互角だろう。
負けない自信はあるが、倒す自信もなかった。

マズイな・・・近づいてきてる。

目的はわかっている。
だがそれを達成させてやる気はさらさら無い。
周囲の会話に合わせから揚げを頬張りつつ、見えない早さでクナイを放った。
軽い牽制。ついでに手紙を結び付けておく。

『今は来るな。話があるなら“本宅”へ来い。』

さて、どう出る?
しばらく待っていると、またしても“奴”がコチラへ近づいてきた。
残り21メートル。

懲りない奴だな・・・性格は変わってないワケだ。

溜息をつく。
続いて千本を取り出し、2本同時に放った。
先ほどのクナイも手で受け止めたのか、音が鳴ることはない。

どうやら・・・諦める気は無いらしいな。

腹を括る。
深呼吸をする。
さっと周りを見回す。

―――グッバイ、俺の平和な日常!


俺は徐に立ち上がり、印を結んだ。






“火遁・炎爆流撃砲!!”





+  +  +  +




凄まじい爆音と共に、森の一部が焼け消えた。
悲鳴。息を呑む音。そして束の間の静寂。
皆が俺の方を振り返り、隙無く構えた“うずまきナルト”を見て呆然とする。


「ナ・・・ナルト・・・・・・!?」


そう擦れた声で呟いたのは誰だったか。
俺は確かめることもせず、大きく後方へ跳躍する。
そして一言。

「カカシ! 皆を非難させろ!!」

「え・・・」

動こうとしない上忍達。事態が飲み込めないらしい。
俺は小さく舌打ちするが、“奴”は他の人間に危害を加えたりしないだろう。
―――こちらから手を出さない限りは。
俺は10メートル程皆から離れ、姿を現すのを待った。


晴れてゆく煙の中から出てくる漆黒の人間。
ゴホゴホと咳き込む鮫のような人間もいる。

「なっ・・・何故お前が・・・ここにっ・・・・・・!!」

呆然と呟くカカシ。
だがそんなことより、もっと気をつけることがあるだろう?


「きっ・・・貴様ぁあああああっ!!!!!」

「サスケ!!!」


カカシとアスマの制止も間に合わない。
こうなると思った・・・だから本宅に来いと伝えたのに。
俺は短く舌打ちし、サスケの足を引っ掛ける。

「っ!?」

つんのめり、無様に転がるサスケ。
信じられないとでも言うように見上げてくるが、
俺は無視して冷たい声音で言い放つ。

「少し黙れ・・・サスケにカカシ」

「「っ・・・!!」」

俺の殺気に当てられ、黙り込む二人。
他の連中も息を呑んで沈黙する。

「ナルト・・・お前はいったい・・・・・・!?」
「黙れと言っているだろう、カカシ。死にたくなければソイツらを守ってろ」
「・・・・・・・・・・・・」

そこでようやく理解したのか、カカシは素直に下忍達の前に立つ。
納得のいかない顔をしているが、俺の実力に気付いたのだろう。


「―――さぁてイタチ、俺の熱烈なラブレターを読み飛ばしたからには覚悟できてんだろな?」


嘲笑を含んだ声で。
目の前の男に対してではない・・・俺自身に対してだ。


「・・・お前と戦うことだけは避けたいな」
「ハッ! 俺が素直に行くと思うかよ?」

軽く吐き捨てる。
忌々しい・・・実に忌々しい!
今更―――・・・・・・

「今更、来たって遅いんだよ」

真っ直ぐと、イタチに向けられた視線は動かない。
体の奥底が熱くなってくる。
黒く、トゲがある感情が渦巻く。
ほんの少し頭の中でイタチを罵り、すぐに静かになった。
・・・・・・感情を見せることすら我慢ならない。

「俺はそうは思わないが。俺たちに今更も何もないだろう」

少しだけ、イタチにすらわからない程度に片眉を上げる。
昂ぶっていく怒りの感情とは裏腹に、頭の中はますます冷えてゆく。
俺は殺気を飛ばすことすらせず、ただただ男を見据えた。



「ごちゃごちゃうるせぇな―――・・・死ねよ」



俺はゆっくりとクナイを構えた。










少し前から、気になっていた彼。

ドベでバカなはずの彼。

そんな彼が今、信じられないような戦いをしている。

皆が魅入って、動けない。

信じられないけれど、妙に納得してしまう。

ああ、この人は強い。



あの漆黒の人は誰なのだろう。



―――泣いている。

あの強い金色が、泣いている。

涙なんて流してはいない。

だけど、泣いている。

痛い。

痛いんだ、彼は。

あの2人が誰なのかはわからないけれど。

漆黒の人を傷つけてるから、痛いんだ。

ああほら。

また怪我をした。

左肩がだらりと垂れ下がる。

それでもなお、金色は戦い続ける。

真っ赤な血が、美しいほどにその金糸に映えて―――・・・・・



こんな悲しい光景を、初めて見たような気がした。









―――ああ。
強い。やはりコイツは強い。

イタチの右腕が閃いたと思ったら、左肩に鋭い痛みが走った。
勢い良く噴出す鮮血。
真っ赤な生と死の象徴。

体の芯から全てを貪り食われ、奪われていくような感覚。
けれど奪われるくらいなら、奪う。
そして解放しよう。


俺の想いと、お前の魂を。



「憐れだな、イタチ―――・・・」
「・・・何がだ?」

手を止めて、男を見つめる。
鮫人間は手を出してこそいないが、その視線が不快だった。

「お前は、囚われているんだ」

淡々と。淡々と。
感情なんて見せてはいけない。
それが戦闘の中では一番の弱点となる。
だけど、解放してやらなければ。

「俺という化け物に、囚われている」
「・・・・・・・・・・・・」

沈黙するイタチ。
何を言っているのだと、そう語る視線が痛かった。

「だから、俺自身の手で解放してやる・・・大人しく殺されろ。もしくは殺せ」
「・・・馬鹿なことを言うな、ナルト。俺はお前に殺されはしないし、お前を殺しもしない。
 お前を置いて里を出て行ったのは悪かった・・・だが俺は・・・必ず迎えに来ると、約束した」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

今度は俺が沈黙してしまう。
イタチの真摯な表情。
この言葉に嘘はないと、はっきり伝わってくる。

だがいずれにせよ、俺は断っていたよ。
お前と一緒に里抜けなんて、できなかったんだ。



「―――重いんだよ」
「・・・・・・・・・」



初めて打ち明ける、本心。

「重いんだ。お前の気持ちが。俺には受け止めるほどに余裕が無い」



あくまで表情を崩すことはなく。
対照的に、イタチの顔は曇った。




「頼むよ、イタチ・・・・・俺が好きなら、殺すか、殺されるか・・・選んでくれ」





それに、俺はもうすぐ―――・・・・・






















「俺は、もうすぐ死ぬ」























その時、金色が涙を流した。

はじめてみる彼の涙。

何より綺麗で、透き通っていて―――・・・

彼の口にした言葉が信じられなかった。

多分、その場の全員が思ったこと。

その瞬間、彼の強さとか、漆黒の抜け忍とか、

全てが・・・全てがどうでもよくなった。


伝わってくる想い。痛み。

ヒシヒシと。

ヒシヒシと。

彼はこの人を愛しているのだと、理解できる。


壊れそうなほどに虚ろな彼。

あの綺麗な空色はどこへいったのだろう。

あの綺麗な金色はどこへいったのだろう。

彼の鮮やかな色彩が濁って見える。

綺麗に綺麗に濁って見える。

ああ、私などが介入していいことではない。

だけど。


だけど―――・・・・・










「ナルト・・・・・里に、帰ろう」









「――――――――――・・・・・・イノ」




















彼と、漆黒の人の見開いた目が、彼に抱きついた私に向けられた。






――――帰ろう、ナルト。








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ねぇ、帰ろう。
ねぇ、泣かないで。
お願いだから。

「泣いていいよ」って言えるほど、
私はまだ大人じゃないんだ。
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