いつからか、気付いてはいた。
いつからか、認めてはいた。
気付けば俺の目は彼女を追っていた。
気付けは私の目は彼を追っていた。



似て非なるもの。
似ているけど、違うもの。
同じ金という色に、同じ青という色に括ることができるのに、
同じ金色に、同じ青色に含めることができるのに、
どうしてこうも輝きが違うのか。
どうしてこうも輝きが違うのだろう。



初めは嫉妬。
初めは嫌悪。
徐々に羨望。
徐々に友情。
そして恋情。
そして初恋。



認めよう。
今なら認められる。
俺などに欲する権利はないと。
漆黒の子への思いは、憧れだったと。




けれど、欲しい。
―――欲しい。




今は漆黒と血の赤よりも、
今は漆黒よりも、桃色よりも、
柔らかい金と母なる海の青が欲しい。
気高い金と強く優美な青が欲しい。





君となら喜んで堕ちてみせる。
彼となら喜んで逝ってみせる。

















ほら、俺の後ろに黒い翼。
ほら、彼の後ろに白い翼。





















俺が好きなら・・・(後編)




















「―――帰ろう、ナルト。帰ろう」
「イノ・・・・・・・・・!?」

驚きに満ちた彼の声。表情。
それすらも愛しいと感じてしまう私は、末期だ。

「ねぇ、帰ろう・・・帰ろうよぉ・・・・・・」

違う。
こんなことが言いたいんじゃない。

「ナルト・・・お願いだから泣かないでよっ・・・・・・!
 ナルトがっ、その人を傷つけるたびに、泣いてる・・・!」
「イノ・・・・・・」

ナルトの両手が私の肩にそっとかかる。
一瞬ビクッとしてしまったけど、その手は思いのほか優しかった。

「―――イノ、わかったから、な? 泣くな・・・頼むから」
「・・・泣いて・・・なんかないっ・・・・・・!!」

嘘。泣いてる。
私も、ナルトも。

「・・・・・・イノ」

また、名前を呼ばれる。今度は少しキツめに。
顔を上げると、真剣な目をした彼がいた。
一瞬だけ、その目が悲しげに揺らめいて―――・・・


「・・・―――ゴメンな」


ドスッ!


腹に鈍い痛みが走ったと思うと、
意識が闇の中へと引きずり込まれていった。






+  +  +  +






ドキリとした。
イノに、「泣くな」と言われて。
確かに俺は泣いてしまったけど、まさか彼女にそう言われるとは。
俺は静かにイノを抱き上げ、カカシの元へ連れて行った。


「イノを、頼む・・・カカシ」
「―――ナルト。お前は一体」
「聞くな・・・頼むから」
「・・・・・・・・・」

聞くな。
どうせこの場で、全て忘れるのだから。


「―――悪いな皆・・・忘れてくれ」


俺は素早く印を結び、皆の記憶を消し去った。








「・・・・・・・・・・・・・・・・・・続きをやるか、ナルト?」
「・・・・・・・・・・・・」

ゆっくりと、向き直る。
手も出さず見守っていた男が、そこに居た。

「・・・やらない。今日はもう帰れ。死ぬ気も殺す気も失せた」
「―――そうか」

またな、と言ってイタチは帰っていく。鮫人間が慌てたが無視だ。
あいつらしい・・・そう思えることが、そこまで彼を知っていることが腹立たしい。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


俺はしばらくぼんやりと立ち続け、気を失ったイノを見つめる。
別にわざわざ腹を殴る必要も無かったのに―――・・・
消したく、なかった。
この日が在ったという証を。

そして溜息をつき、皆を起こしにかかった。





+  +  +  +





あの日は一体、なんだったのだろう。
ナルトに揺すられて、気付いたらお腹に痛みが走った。
皆周りで倒れていて―――・・・
ナルトと協力して、起こしたんだっけ。
何でこんなことになってるの?って聞いたらたしか、

『サスケが術の練習してて失敗したんだってば』

―――って言ってたっけ。
それで、アイツが一番初めに起きたんだ・・・って。

「でもなんか・・・忘れてるような・・・・・・」

いくらベッドの上で考えても、答えは出ない。
あの日は絶対何かがあった。
とても大切な何か。
忘れてはいけない何か。


――――――――――――――――――――――――・・・・・・


「ええぃ、こうなりゃ直接聞くまでよ!!」


お腹に残るアザを一瞥し、私は勢い良く部屋から飛び出した。







「ナ〜ル〜ト〜〜ッ・・・・・・・・・・・・!?」


誰なんだろう、と思った。
ナルトのアパートに着くと、そこに居たのはナルトと・・・・・・
サスケ君に良く似た、漆黒の人。
そして確信する。

―――忘れていたのは、この人のことだ。

「ナルト・・・・・・? その人、は?」
「・・・・・・イノ」

あ・・・また。
悲しげな瞳。
ナルトは最近よくこんな目をする。

見ていると、こっちまで悲しくなってくる。
きっとあの日のことに関係あるんだろうから・・・
だから、原因を知りたくて。


「ナルト―――教えて。あの日、何があったの?」


はっきりと、聞いてみることにしたんだ。



+  +  +  +



「―――また来たのか・・・」

溜息をつく。
いい加減しつこい。

「何度でも来るさ。・・・それより、あれはどういう意味だ・・・死ぬ、とは」
「・・・ああ、アレ。あれは・・・・・・・・・・・・・・ !」
「―――どうする?いいのか?」

よくは、ない。
今近づいてきている気配に、知られるわけにはいかない。
―――けれど。
隠れる気も、取り繕うきも起きなかった。




ああ、もう・・・・・・

全て話してしまえれば、どれだけ楽なのだろう?

けれどそれはできない。

彼女は俺を拒絶することはしないだろう。

でもそんなことをしたら、里の憎しみを受けることになる。

嫌だ。それだけは。

だから姿を消さなければならない。

なのに。

体が、動かない。

こんなにも君を欲する体は動かない。


―――俺はもう、あの頃のように強くはなれない。









「ナルト―――教えて。あの日、何があったの?」
「・・・・・・・・・・・・イノ」

真摯な表情。
教えたい。知ってもらいたい。気付いてもらいたい。
この、想いに。

「黙ってないで教えてよ!・・・このアザ、関係あるんでしょ!?」
「・・・・・・!」

イノの腹に、痛々しく残るアザ。
―――そうだ。それは俺がつけた。
俺の迷う心の象徴だよ。

だけど、俺はもう―――・・・・・・








君は耐えてくれるだろうか?
この里の憎しみに。







「イノッ・・・・・・!!」








ごめん、イノ。




俺はそう囁いて、彼女の柔らかな唇に口付けた。











+  +  +  +










「イノッ・・・・・・!!」




ごめん、イノ。



彼はそう囁いて、私の唇に口付けた。





「ッぁ・・・・・・!?」



蘇る、記憶。

熱い。

ナルトが、漆黒の人と戦っている。

熱い。

ナルトが、漆黒の人を傷つけて泣いている。

熱い。

ナルトが、「俺はもうすぐ死ぬ」と言って泣いている。

泣いている。


泣いている―――・・・・・・













痛いよ、ナルト。
















「ナルト・・・・・・死んじゃ、ダメ・・・・・・好き・・・だよ・・・・・・」






















朦朧とする意識の中、真っ先に浮かんだのはその言葉だった。






+  +  +  +






「・・・・・・・・・!!」


自分の耳が信じられなかった。
思いの外軽い体を抱き止め、深呼吸する。
好き、と。
そう言ってくれたのか?

「イノ・・・・・・?」

呼びかける。返事は無い。
気を失っているようだ。




―――そうか・・・・・・


君は

俺のことを好いてくれていたんだね。

だけど俺が好きなら・・・・・・俺を殺せる人じゃないといけないんだ。

優しい君には、殺せない。



「ありがとう、イノ」



俺は彼女の額に口付け、そっと柔らかな草の上へ寝かせた。






そして決心する。




―――俺は、強くなる。




今の俺は弱い。




すぐに“死”を意識してしまうような奴なんだ。



イタチと再会した途端、死にたいと思ってしまった。




―――愛してしまうと、愛されないと生きていけない俺。




いつか必ず強くなって、会いに来る。




君が覚えていなくてもいい。






会いに来る。
























「イタチ―――・・・行くぞ」


























+  +  +  +




「ん・・・・・・・・・」

目を覚ますと、そこは私のベッドの上だった。
いつの間にか眠ってしまっていたらしい。

―――頭が、重い。

すっきりしたくて、シャワーを浴びに風呂場へ向かった。



何か、忘れてる?


鏡に映った私を見て、思う。

そういえば、痛みがない。
私は先日お腹を打って―――・・・・・・






あれ・・・無い?



















不思議なことに、お腹のアザは綺麗に消えていた。



















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アザと一緒に消えていった何か
それを知る術はもう私には残されていない

金色の抜け忍は今何処で何をしているのだろう
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