産まれた時、俺はただの人間だった。
それから間も無く、俺はただの人間ではなくなった。
今思えばそれは偶然でも必然でもなく、単なる出来事に過ぎなかったのだと。
隣にいる面倒臭そうな幼馴染を見て思う。
産まれてから12年後のある日、俺は唐突に全てを理解した。
この世界は、俺に何かを与えては奪っていくのだと。
所詮時の流れに抗うことなどできないのだと。
Never Land Story ---大人になりたくない子供の話---
「この野郎! ノコノコと買物にきやがって!!」
「アンタなんかに売る品物なんて無いわよ!!」
「さっさと消えちまえ!!!」
「お前なんか・・・・・・!!」
「お前さえいなければ・・・・・・!!」
「おまえが・・・・・・」
「オマエが・・・・・・」
「オマエガ――――――・・・・・・」
徐々に聞こえなくなっていく罵声。
徐々に見えなくなっていく醜悪な人間達。
失われていく聴力。視力。感覚。痛覚。
俺はろくな抵抗もせず、ただただ理不尽な暴力に身を任せた。
だってほら、もうすぐアイツがやって来る。
「何をやっている、お前たち?」
暗部装束に身を包んだ、小柄な人間。
周りの人間が息を呑むのがわかる。
「なっ・・・おまえは!?」
「やめとけ! コイツはまさか・・・!!」
「お、おいっ!!逃げるぞ!!!」
途端、一目散に逃げていく人間達。
徐々に回復していく五感。
「おい、大丈夫かナルト?」
「シカマル・・・・・・今日は案外早かったなぁ」
今まで意識に靄のようなものがかかっていたのに、一気に晴れた。
周りにはもう誰もいない。目の前の人間だけ。
シカマルが、あからさまに顔をしかめる。
「お前・・・何でいつも抵抗・・・ッ! いや、いい」
「ん〜やっぱお前頭いいから好きだ」
「・・・・・・・・・アホ」
「酷いなぁ」
シカマルは、「抵抗しろ」なんて無責任なことは言わない。
抵抗なんてしたらもっと暴力が酷くなることを、ちゃんとわかっていてくれるから。
「とにかく・・・帰るぞ!」
「了解〜♪」
乱暴だけど、どこか優しく立たされる。
自然に差し出された手が暖かく、くすぐったい。
だから俺は何も心配なんてしていなかったんだ。
ただ、コイツだけが居てくれればいいと。
この世界に“死”はつきものなのに。
そのわずかな可能性なんて考えもしていなかった―――・・・
+ + + +
「シカマル・・・・・・お前割と男前だったのになぁ。変わっちゃったね」
涙は出なかった。
特別に悲しいとも思わなかった。
シカマルの惨殺された遺体を見ても。
手足は全て妙な方向に曲がり、右足と左手が途中から存在していない。
歯は殆んど抜かれ、目も左目のあるはずの部分に無い。
胸をシツコイくらいに切り裂かれ、ハラワタが飛び出していた。
里人に殺されたらしい。見せしめとして。
九尾と仲良くした者は、いずれこうなるのだと。
五代目火影は激怒した。悲しんだ。
一刻も早くシカマルを殺した者達を見つけ、ナルトに引き渡すと。
泣きながらそう言った。
「―――別にいいよ、ばっちゃん」
「何故だっ!?」
「だってさぁ・・・里人殺してもシカマルが生き返るわけじゃないし。
それに・・・奴らの顔見たら、関係ない奴まで殺しちゃいそうだし・・・。
俺今自分でも驚くくらいに穏やかなんだよね」
「・・・・・・・・・」
「もし今の状態が崩れちゃったら、多分この里滅ぼさないと止まんないよ」
それは確信。
シカマルが死んだ悲しみより、怒りが強い。
シカマルが殺された怒りより、憎しみが強い。
シカマルを殺した奴への憎しみより、虚無感が強い。
その夜、ナルトは静かに里を抜けた。
+ + + +
「ねぇシカマル・・・俺大人になりたくないな」
「あぁ? 何ワケのわかんねぇこと言ってんだよ」
「だって俺の周りの大人ってクダラナイ奴ばっかだし〜?
俺はそんな奴になりたくないし、シカマルにもなってほしくない」
「・・・・・・そんなん無理な話だ。人間が時の流れに抗えるわけがない」
「だよなぁ〜・・・残念」
「だいたい“大人”という概念自体が酷く曖昧だな。
お前の言葉からすると要するに年を取りたくないっつーことか?」
「そうそう。さっすがIQ200のシカマル君。
でもただ単に若さを保ちたいっつーワケでもないんだなこれが」
「・・・それで?」
「結局さ、どこから“大人”でどこまでが“子供”なんてわかんねーじゃん?
だから俺達は“成人”する年齢を“大人”として定めるわけだ」
「ああ」
「年を取れば取るほどに俺達は何かを失い続けていく・・・・・・
その犠牲にみあった対価を得られる保証なんてないだろう?」
「そーだな」
「それでも“成人”するまでは“子供”で居られる。守られる存在で居られる。
失う物は少なくて済む・・・・・・俺は誰かに守られる存在で居たいんだ」
「・・・・・・・・・・・・」
「だから俺は大人になりたくない。お前にもなってほしくない。
クダラナイ人間にはなりたくないし、誰かを守るなんて大層な事俺には出来ない。
今だって俺を守ってくれる人間は少数だけどさ、それでも・・・子供のままでいたい」
「難儀だな」
「あ、やっぱり? ・・・・・・いっそ禁術で時間軸捻じ曲げた空間でも作ろうかな」
「ヤメテクレ」
「冗談だよ」
「・・・・・・どの道“大人”にならない方法なんて存在しないだろ。
なら潔く諦めることだな・・・・・・守られたいなら俺が守ってやるから」
「おおっ! 熱い愛の告白かっ!?」
「うっさいっ!! 俺はっ・・・」
『俺は―――・・・・・・』
+ + + +
蘇る記憶。
あと一週間で俺は“大人”になる。
あの時、お前は何を言おうとしたのだろう。
正確には何を言うかなんてわかっていたけど、お前の口から聞きたかった。
静かに、目の前の谷に向かって歩き出す。
「ナルト〜何やってんの?」
「・・・カカシ・・・俺を殺しにきた?」
「半分正解半分ハズレ。でも一応追い忍の任務を仰せつかって参りまシタ」
「そうか・・・綱手が事故死したんだもんね」
ゆっくりと振り返る。
そこには写輪眼で名高い、元担当上忍の姿があった。
「もう8年近く経ったよね・・・あの時はホントビックリしたんだよ?
ナルトが里抜けして、しかも5歳の時から暗部に入っていたなんて」
「そうだろうね。・・・っていうかアンタ一人?」
「そうだよ〜。俺だって元教え子を殺したくなんかないワケ。
お願いだからさぁ、黙って一緒に来てくれない?
今の火影様はあんまり九尾を恨んでないらしいからさ、
“蓮”のことを是非専属の忍として迎え入れたいだって」
「それはまた・・・変なヤツ」
この俺を専属の忍にしたいとは酔狂な人間もいるものだ。
いささか驚きつつ、俺は静かにホルスターからクナイを取り出した。
「ゲ。止めてよナルト、俺がお前に勝てるワケないじゃん?」
「そうだろうね。でも俺の居場所を知られたからには生かしておくわけにはいかない」
「・・・・・・変わったねぇナルト。いやそれがお前の本性か」
「そうだよ」
本性も何もない。
こんな自分にしたのは里の大人達だ。
「そんな風にしてしまったのは俺達か・・・・・・」
「わかってんじゃん」
ならば聞くな、と。
軽く舌打ちしてやると、カカシは信じられないような言葉を口にした。
「―――それとも、お前の大好きだったあのお馬鹿なシカマル君?」
「・・・・・・なんだと?」
「本当に馬鹿だったよねアイツ。俺のナルトに手を出すなんて。
だから俺、里人をちょ〜っとそそのかしてやったんだv」
「・・・・・・・・・・・・」
カカシは本当に楽しそうに喋る。
ああそうか、この男は狂っているのか。
「そしたら効果抜群!! 翌日にはあんな状態になってたヨ。
馬鹿だよねぇ、化け狐を愛してやれるのは俺だけだっていうのに」
「・・・・・・化け狐?」
「そう! お前のことだよナルト!!
あ、でも俺はたとえ化け狐でもお前が好きなんだから、
別に里の奴らみたいに暴力ふるったりはしないよvvv」
ああ、これだから大人という奴は―――・・・
「でも酷いよナルト。
せっかく邪魔者を殺してやったのにさ、里抜けしちゃうし。
追おうとしても綱手様にいつも止められちゃってさぁ。
火影様が“偶然”変わってよかったよ・・・ホント」
「・・・・・・・・・」
“偶然”、ね。
やっぱコイツが綱手を殺したのか。
「ほらナルト、早く里へ―――・・・・・・アレ?」
「俺は行かないよ、カカシ」
「ねぇナルト、何で俺の腕が無いわけ? ・・・・・・アレ?」
「だから一人で逝きなよ、カカシ」
「ナルト・・・どうして俺の・・・首から・・・血が・・・・・・」
無表情のまま、俺はカカシを谷底へ突き落とした。
+ + + +
「参ったなぁシカマル・・・・・・俺戻ってくるつもり無かったんだけどね」
真夜中。丘の上の墓の前。
俺は今木の葉へ戻ってきている。もちろんお忍びで。
ここはシカマルの骨の一部を埋めた場所。
あの時転がっていた腕から、小さな指の骨の一部を抜き取っておいたのだ。
それを素手で掘り返し、内ポケットに大事にしまう。
そして徐に腕時計を見て、粗末な墓石を素手で粉々に砕いた。
もうこれは、必要ないから。
「俺が“大人”になるまで後10分・・・・・・最期くらい、遊んでもいいよね」
里人だって、慰霊祭を行わずに済むのだし。
余計な悲しみを思い出さなくて済むのだし。
この世界は、俺に何かを与えては奪っていく。
ならば最期くらい、何かを奪わせてもらってもいいだろう。
俺は音も無く里の方へ駆け出し、静かに九尾の封印を解いた。
さぁ行こう、子供の国へ。
俺とシカマルしか存在しない、永遠の国へ。
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一つだけあったよ、“大人”にならない方法。
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